¥700

manufacturing consent
原発事故汚染水をめぐる「合意の捏造」

 (本文より)

 言語学者であり政治やジャーナリズムの批評家でもあるノーム・チョムスキーは、著書でこう書いた。

リップマン(※)によれば、民主主義には「合意の捏造」と呼ばれる新たな技があるという。(中略)合意を捏造することによって、形式上多くの人々が選挙権を持つという事実を克服することができる、と彼は言う。その事実は合意を作りだすことによって無効にすることができ、たとえ形式的な参加ができても人々の選択や態度を自分たちの言った通りにしてしまうことが可能となる。かくして適正に機能する民主主義が作り出されるのであり、それはプロパガンダ産業の教訓を適用した結果なのである。(チョムスキー著、本橋哲也訳『メディアとプロパガンダ』)
※ウォルター・リップマンは米国の著名なジャーナリスト。

 政治権力とマスメディア、PR業界による「合意の捏造」が民主主義を無効化する、とチョムスキーは指摘する。広告産業界のリーダー、公的な知識人、社会の指導層の言説を分析したチョムスキーは、さらにこう述べる。


彼らはだいたいにおいて(忠実な引用ではなくやや言いかえればだが)一般大衆が「無知で小うるさい邪魔者だ」と言っていることがわかる。やつらはあまりに愚かなので公共の場から締めだしておくことが必要で、やつらが公的なことに口を出すとろくなことにならない。やつらの仕事は「観客」でいることで「参加者」となることではない、というわけだ。(チョムスキー著、同)

   ◆ ◆ ◆

 テレビCMで「海洋放出は必要、ALPS処理水は安全」というイメージを大衆に刷り込み、高校では自分たちに不都合なことは一切伝えない「出張授業」を行い、水産業者を囲い込むための「海の幸PRイベント」を大量に開催し……。本来であれば日本政府は海洋放出の問題点も含めて議論を尽くし、本当の「合意」を目指していくべきだ。しかし、政府はそうしたことに取り組まず、金を湯水のごとく使ったプロパガンダで偽物の合意をでっち上げようとしている。マスメディアはそうした政府の企みを指摘せず、むしろ政府と一体化して捏造された合意を国じゅうに広めている。


こんなやり方がまかり通ってしまっては、民主主義はクラゲみたいに骨抜きになってしまう。「海洋放出はYESかNOか」と問われれば、筆者自身は迷わず「NO」と答える。しかし海洋放出という「結果」と同じくらい深刻なのが、合意の捏造という「プロセス」ではないかとも思っている。言い換えれば、海洋放出そのものは「YES」と考えている人たちも、この政府、経産省のやり方には「NO」を突きつけるべきだ。このブックレットはこういった問題意識で書く。
汚染水の海洋放出をめぐって政府(中心は経産省)がやってきたことはすべて「合意の捏造」だと思っている。しかし、そこまで書き込む時間がない。書いているうちに海洋放出が始まってしまう。だからひとまず2021年4月13日に海洋放出する方針を決めてから、政府がやってきた一連のプロパガンダについて書きたい。
それが実際に「合意の捏造」と言うべきものなのかどうか、本編を読んだ皆さんにジャッジしていただきたい。

在庫切れ

説明

目 次 …………………………………………………………………………… 2
【はじめに】ある朝突然、テレビから… …………………………………  4
【Chapter1】政府テレビCMへの違和感 ……………………… 10
【Chapter2】CMだけじゃなかった海洋放出PR事業 ……… 28
【Chapter3】あまりにもいいかげんな高校生向け出張授業 … 42
【Chapter4】合意の捏造を支えるマスメディア① …………… 52
【Chapter5】合意の捏造を支えるマスメディア② …………… 58
【Chapter6】合意の捏造を打ち破れ! ………………………… 74
【おわりに】 「合意」は民主主義の基本である ……………………… 94

A5版:本文100ページ